ランドセルの思い出
明日は初登校日
ランドセルが嬉しくて、ワクワクして眠れない息子。
「明日6時に起きるからね、早く寝ようね」
「うん!」

朝6時前。
突然、「行ってきま~す!」という息子の声と、玄関の「バタン!!」という大きな音。
「え?まさか…!」
慌ててベランダから外を見ると、ランドセルを背負った息子が走っていく。
「ちょっと待って!まだ早いよ~!」
思わず叫び、手招きして戻るように促す。
「あ~びっくりした!まずは朝ご飯を食べようね」
「僕も遅刻するかと思ってびっくりした~!」

そうだね。
入学式で先生に「寝坊して遅刻しないようにね」と言われたことが、ずっと頭から離れなかったんだね。

改めて「行ってらっしゃい」と玄関で見送り、ベランダからさらに見送る。
小さな背中は、ちょこちょこと歩きながら何度も振り返る。
黒いランドセルから、2本の足が生えているみたい。
見えなくなるまで手を振るうちに、目が潤んだ。
「ただいま~!!」
元気よく帰ってきた息子は、そのまま ばたんきゅ~ 。
すやすや眠る姿を見て、「疲れたんだね」と微笑んだ。

あの日のことは、今もしっかり覚えている。
いつだったかな。
ベランダからの見送りを「もうしないで」と言われたのは。
ちょっと寂しかったのを覚えている。
ジーパンを買い、友達がみんな履いているからと 短パンを卒業 したときも、複雑な気持ちになった。
何より、一番ショックだったのは——
毎年一緒に行っていた花火大会。
「友達と行くから、お小遣いちょうだい!」
家でひとり、遠くで響く花火の音を聞きながら思った。
「子離れかぁ…」
あの夜は、少し覚悟をした。

役目を終えたランドセルは、ミニランドセルに生まれ変わり、ずっと飾ってあった。
でも、父が亡くなり、実家を片付けたときに、どこに行ったのかわからなくなってしまった。
そして今——
二番目の孫息子が、ランドセル最後の日を迎える。
そのタイミングで、息子の 初登校の日 の姿がよみがえる。
初孫のランドセルは、そのまま大切に残されているらしい。